偽りの仮面 第16話


ゼロが現れれば、偽ゼロもまた現れる。
それはもうお約束事と言ってよく、黒の騎士団もブリタニア軍も既に偽ゼロが邪魔をしに来る前提で行動するようになっていた。偽ゼロが前線にいればKMFでの戦闘が起こらないため、自分の行動は正しいのだと迷惑な自信をつけてしまったスザクは、今日も今日とて偽ゼロに扮しルルーシュを守るためブリタニア軍の前に姿を現していた。

偽ゼロが現れて以降、黒の騎士団の活動は比較的おとなしくなり、KMFを駆り出す事もあまり無いため、特派はブリタニア軍の後方待機さえ許されなかった。
これはイレブンがパイロットであることも理由だが、それ以上にコーネリアが偽ゼロを気にしており、一度話をしてみたいと口にしたため、万が一にもイレブンが偽ゼロに危害を加えないようゼロに関わる軍事行動に関わらせなかったのだ。こっそり特派が動くことも恐れ、ゼロに関わる作戦中は特派は休むように命じられた。そのおかげでスザクは自由となり、その結果今日も元気に偽ゼロ活動中である。
最近の軍の動きは明らかにゼロ<偽ゼロになっており、むしろ偽ゼロを見つけるために黒の騎士団の作戦を読み、ゼロと対峙する状況を作り出していた。それに気づいたゼロは、スザク(仮)の身体能力を認められたのだと、悔しいような、誇らしいような、複雑な心境と不安で頭のなかはぐるぐるしていた。
黒の騎士団の活動が大人しい理由は当然、偽ゼロの身を案じたからだ。
あれが見知らぬ他人なら、騎士団にスカウトしたいな程度には考えるが、リスクが大きいなら諦めるし、なによりここまで悩みはしない。
あの中身問題なのだ。
スザクは否定するし、アリバイの証人はナナリーと咲世子。
嘘をつくはずのない人物が別人だと証言しているのだ。
・・・やはり他人なのか?
いや、どう考えてもスザクだろう。
C.C.に証拠集めをさせようとしたが「お前がナナリーを疑うのか?」と聞かれてしまえば、それ以上何も言えなくなった。
そう、あれをスザクだとした場合、ナナリーが俺に、この俺に嘘をついたことになってしまうのだ。嘘なんて吐いたことの無いあの純真無垢なナナリーが、俺に、嘘を。
ありえない。
ありえないが、ではどういうことなのだ?
ナナリーに対する思い込みのおかげで、偽ゼロの正体についての回答をルルーシュは出すことができなかった。・・・そんな兄の考えを完璧に把握しているナナリーは、ルルーシュがスザク=偽ゼロだと断言出来ないと知った上で行動をしている。

ブリタニア軍が偽ゼロ捕獲に躍起になっているおかげで、黒の騎士団の作戦は成功し続け、連日新聞や雑誌の紙面で取り上げられるほどだった。
それはゼロと偽ゼロに惑わされすぎた結果、ゼロが参加しない作戦への妨害がほぼ無かったからだった。つまり、黒の騎士団はゼロが参加する作戦をブリタニア軍に察知しやすいようにし、ゼロを囮にしている間に別の作戦を決行していたのだ。

「誰だかしらないが、偽ゼロ様々じゃないか」
「・・・そうだな」

黒の騎士団としては喜ぶべきだが、ルルーシュとしては喜べない。あんな危険なことなどせずに、ナナリーの傍で笑っていてさえくれれば・・・俺が必ず日本を取り戻し自由にするその時まで待っていてほしいのに。
偽ゼロをやめさせるためにも、早くに日本を開放しなければ。

弱者のために動く黒の騎士団。
黒の騎士団を追いつつ偽ゼロを追うブリタニア軍。
ゼロを守るため動く偽ゼロ。
三つ巴とは言いがたい3つの勢力の動きは、ある日唐突に終わりを迎えた。

戦闘において、真っ先に狙われるのは指揮官であり首魁でもあるゼロだ。
それでも前線に出続けるゼロは、いつも危険な状況になりながらもどうにか切り抜けてきた。それはゼロ自身の逃げ足の速さと、逃走ルートをいくつも確保していることが大きいのだが、偽ゼロに救われることも多かった。
この日も、そうだった。
偽ゼロが到着する前に始まったKMFによる戦闘。
集中的に狙われるゼロ。
完全に逃げ道を塞がれ八方塞がりな状況にありながら、カレンや玉城達はゼロの援護に行けずにいた。だが、これはゼロの策で、実際は窮地に見えるようにしているだけで上手く切り抜けていたのだが、偽ゼロはゼロのピンチと判断し、KMFの戦闘が行われている場所に単身飛び込んだ。

「あの、馬鹿が!!」

生身の人間が、KMFの戦闘に。それはすでに何度も見てきた光景だったが、今回は勝手が違う。黒の騎士団側はゼロ一人、そしてブリタニア側はサザーランドだけではあるがKMF8騎。クラッキングによる敵機への干渉を行い、各機の動きと逃走経路を計算し、ギリギリではあるがどうにか回避し続けるという針の穴に糸を通すような作業が、偽ゼロの乱入により崩れた。

「くっ・・・!」

偽ゼロの行動に思わず手を止めてしまったのが敗因。
ゼロの機体が大破し、『ゼロ!!』と叫ぶ声が聞こえた。
反射的に緊急脱出装置に手をかけたが、無駄だと気づきすぐ手を離した。すでに囲まれている以上、コックピットを飛ばした所で後方にいるKMFに抑えられるだけだ。
闘うための機体を失い、脱出経路を塞がれ、味方のKMFは近寄れない。
万事休すか。
だが、この顔を見られる訳にはいかない。
この顔も、この血も、何も残せない。
その僅かな情報でゼロが死んだはずの第11皇子ルルーシュだったと気付かれたら最後、ナナリーの生存も知られてしまう。
それだけは、避けなければ。
ゼロは隠し持っていたアクセサリーを取り出した。
それはピンク色に輝くとても危険なアクセサリー。
多少の衝撃なら問題ないが、銃弾が命中したり、手に持っているスイッチを入れれば途端に爆発する。
流体サクラダイトで創りだした、超火力の爆薬だった。
キラキラと煌くピンク色の液体が詰まったブローチを見つめ、深く息を吐いた。

「さて、ゲームオーバーだ。ゼロらしく有終の美を飾ろうか」

・・・スザク、ナナリーを頼む。

流体サクラダイトを胸に、ゼロはコックピットから姿を表した




1期最終話のアレがフェイクではなく本物の爆弾という設定。
万が一の時には、その素性がわからないようにする手段をルルーシュなら所持しててもおかしくないと思うんですよね。
ルルーシュの正体がバレたら最後ですからね。

1期最終話では流体サクラダイトは嘘だと判断し、乱暴に外して投げたけど、後からそれが本物で、扱いを間違えれば爆発すると知ったスザクを見てみたい。・・・あれ?外して投げた?本当の可能性があるからルルーシュの手の届かない場所に投げた?あれ?投げたよね?投げてない?私の妄想?あれ・・・?私の記憶頑張れ。

15話
17話